黒の女王

(画:レイジさん  HP:気まぐれかっぱのHP

「もう一度、ゆうてみい」
 黒姫は不快そうに告げた。
 姫が怒っている。
 研究者はハンカチで、冷や汗を拭いた。
「ですから、ご子息の力について、お調べになった方がよろしいのではないかと…」
「不要じゃ」
 しかし、と研究者は粘った。王子を調べれば、失われた魔術を解明は夢ではない。
 その心を見すかしたような目をして、
「そなた。よくよく秋月を実験体にしたいようじゃの」
 黒姫は言った。
「い、いえ決してそのような…」
「なら、わらわの言葉に従えぬか」
「黒姫様っ。私どもは零国の明日を思って――」
「こやつをひっ捕らえい。罪状は秋月への侮辱罪じゃ」
 連行される研究者の目は、ギラギラした執着心に満ちていた。

「かあさま?」
 幼い子供が奥の扉から顔をみせた。先ほどの様子を見ていたのだろう、不安げに母を見つめた。
「覚えておき。切り札を母以外に見せるでないよ」
 子供は意味もわからずうなづいた。

[MAY 21,2004]




自他共に許すいい男?

(画:あにらむさん)

「さて、起こすとなると……」
 青風は面白い悪戯を思いついた子供の様な顔を見せると、秋月の座る椅子の背に手を置いた。
 目にかかるかどうかの黒い前髪、長いまつげに伏せられた瞳、そして柔らかそうな唇。
「暢気に寝ている貴女がいけない」
 青風は秋月に顔を近づけ――――。

――――『第五話 活は人を動かし』より

[JUL 9,2004]




白の名を継ぐ者

(画:tropさん)

 白雲(はくうん)は、幼子を肩車しながら雪の上を歩いていた。
「虎丸、楽しいか?」
 父が久方ぶりに遊んでくれたので虎丸はうん、と喜んで答えた。
 左右の土手の雪山が急に立ち上がると、四人の屈強な男たちが姿を現した。この道が、黄国の王が我が子とよく散歩に使っていると知っていての待ち伏せだ。
 皆、白雲のよく見知った勇敢な破壊の民の戦士たちだった。白雲は我が子を雪の上に降ろした。
「王よ。白の名をかけて勝負!」
「応っ!」
 白雲は腰を落とすと拳を固めた。

 白雲は荒い息をついて、雪の上に横たわっていた。虎丸が父の側に駆け寄った。
 虎丸は素手相手に武器を使うのは卑怯だと罵った。そんな虎丸を諫めたのは白雲自身だった。
「虎丸、私を辱めるつもりか」
それが父と最後に交わした言葉だった。

 強い者が王になる。黄国の民が破壊の民と呼ばれるゆえんだ。原始的な王者の決め方をこの国は好んだ。

 虎丸は、いつかの父と同じ様に、素手で王と対時した。鍛えあげられた虎丸の体は、常人の一回りも二回りも大きい。
「いざ、白の名をかけて勝負!」
 岩をも砕く拳が空気を裂いた。

[JUL 19,2004]




青い従者

(画:エルロードさん  HP:#癒しの灯火#

 正治の民の娘は、抵抗も逃げる素振りも見せずに椅子に座っていた。
 目の前で替えの服に着替える秋月をじっと見つめる。
「青風の指示か。何しに来た」
 喉仏が無いことを隠すためのハイネックのインナーの袖を通して、秋月は聞いた。
 王を呼び捨てで呼ぶのは、秋月の苛立ちの表れだった。
 娘はだんまりを決め込んでいた。
 迂闊に話せば、主に不利な言質を取られるかもしれない…とでも思っているのだろうか。

――――『第三話 割り込みの赤』より


[JUL 19,2004]




黒の後継者

(画:時雨さん  HP:時雨的

 母の腹の中にいた頃から、赤子は力を持っていた。
 だから、生まれた赤子が泣くと、部屋の物が割れ、棚が倒れるのも母は納得していた。
「疳の虫が騒ぐのかの。母はここにおるぞ」
「守姫様っ。危のうございます」
 乳母が止めるのもかまわず守姫が部屋に入ると、騒動はピタリと止んだ。
「母が子を怖れてどうする。しかし、そなたも母を呼ぶなら、泣くだけにしぃよ」
 そう言って守姫は赤子を抱き上げた。
 親子の絆とは赤子にもわかるものなのか、と乳母は関心していた。
「さて、乳が欲しいか。それとも着替えかの……」
 赤子のおしめは濡れておらず、お腹も空いていないようだった。
 それでは何故泣いたのだろうと、守姫が首をかしげた時、ひとつの知らせが入った。
 それは以前から病に冒されていた父の死だった。
 赤子は祖父の死に泣いていたのだ。
 守姫が黒の名を継いで黒姫と名を変え、二年が過ぎて夫も父と同じ病で逝った。
 その時も、子供は泣いた。
「惨めよのう。今際のきわに付き添えなんだ」
 泣き疲れ、膝枕で寝る子供の髪を撫でながら、黒姫の頬を涙が伝った。
 病に感染してはいけないから、と止められたのだ。
「のう、秋月。母はもう泣かぬ。だから、そなたも強くなりぃ」

[JUL 31,2004]




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