コワレモノは大切に


 

 遙か先の未来、発展した科学は、人々に豊かな生活を与えるだけでなく、環境、エネルギー、食料問題全てを解決した。
 そして更に科学を発展させるため国家は、有能な科学者のみを集め、研究所を1ヶ所にまとめ、1つの大きな塔を造った。
 それは、まるで選ばれた者のみが住むことが出来る”象牙の塔”そのものといえる。
 その”象牙の塔”−通称タワーは、世界中から集められてくる科学者の研究所を確保するために今もなお建造中と言われている。

 ここは、タワーのゴミ捨て場。と言ってもありとあらゆる科学者の作品が放置されており、ジャンク屋にとっては、宝の山のような所だ。
 そんなゴミ捨て場に1人の青年が色々なゴミをあさっている。
 青年の年齢は、20歳前後ぐらいに見える。脱色しているのか色素の薄い髪と茶色っぽい眼をしており、オイルや煤で汚れている白衣を着ている。
「おっ!このパーツまだ使えるじゃん。ったく、人の血税使っておきながらこんな風に無駄遣いすんなよな。まっ、そのおかげで俺は、色々と助かってるけどな」
 青年は、ブツブツと独り言のような文句を言いながらジャンクパーツを集めていた。
「ふぅ、こんなもんかな?」
 青年は、集めたジャンクパーツを背中のリュックに詰め込んだ。
「う〜ん、ちょっと入れすぎたか?」
 ジャンクパーツを詰め込んだリュックを見るととても1人では持てない大きさになっている。
 しかし青年は、そのリュックを持ち上げ
「何とか大丈………」
 と言った瞬間、リュックの許容範囲を超えた荷物は、リュックの底を破り、流れるように落ちていった。
 青年は、破れたリュックと流れ落ちたジャンクパーツを見比べて少し諦めたような顔をして
「ふぅ……空が青いなぁ………」
 唐突に無関係な事を口走り、現実逃避している。
 まぁ、確かに雲1つないきれいな青空が広がっている。もしここがゴミ捨て場でなく、広場だったら昼寝をしたくなるような陽気だ。
「あぁ、吸い込まれるような青い空だなぁ………」
 まだ現実逃避しているようだ。
 青年は、しばらくその場でボーっとしていたが、ふとした拍子に我に返
「って、こんな事やってる場合じゃないよ、俺。このパーツどうすっかなぁ……」
 そんな風に悩んでいると横に置いたリュックの残骸が風に流されそうになっていた。
「っとと、危ねぇ危ねぇ。流されるところだったぜ」
 青年は、リュックを捕まえた時、違和感を感じた。
「あれ、風が前から吹いてくる感じがしねぇなぁ……なんか、後ろに引っ張られてるような……」
 その違和感は、後ろを向くとすぐに危機感へと変化した。と言うのも後ろに巨大な吸引装置があり、凄まじい力で吸い込んでいるのだ。
「ノオォー!!」
 青年は、必死になって走った。が、その努力も虚しく体は、宙を舞い吸引装置の中に吸い込まれていった。
 ちなみに吸い込まれる直前
「吸い込まれるようなじゃなくてホントに吸い込まれるんDEATHかぁ〜!!」
 どこか余裕のありそうな叫びがフェイドアウトしていった。

 ここは、タワー内部のゴミ捨て場。と言っても外のゴミ捨て場に通じるダストシューターがあるだけの部屋。
 その部屋に13、4歳ぐらいの鳶色の髪のピンクのワンピースを着た少女がボタンを押している。
「?何も起こらないの?」
 少女は、小首を傾げて不思議そうにボタンを見つめている。
 しばらくその場にいると遠くの方から人の声が響いてきた。そしてその声は、どんどん近づいてきている。
 少女は、その声に耳を澄ましてみるといきなりボタンの横にある穴から何かが現れた。
「……ぁぁぁあああああ!!」
「きゃあ!!」
 いきなり現れた何かに驚き、少女は、悲鳴を上げて後ろに飛び退いた。
 恐らくダストシューターを逆流してきた何かは、辺りに物凄い量の埃をまき散らしている。
 しばらくするとその埃は、徐々に晴れてきて、いきなり現れた何かは、色素が薄い髪をした白衣を着ている青年だと分かった。
「し、死ぬかと思った………」
 青年は、グッタリした顔つきで穴にはまっている。
 少女は、青年に近づき
「あ、あの、こんにちは」
 いきなり声をかけられて青年は、少し驚きながら
「へっ!?あぁ、こんにちは。え〜っと……ここがどこかわかる?」
「ほぇ?……ここは、タワー内部2階のゴミ捨て場ですけど」
「タワー内部!?」
 少女の答えに驚き、手で顔を覆いながら
「マジかよ、こんな風にタワー内部に入るなんて………普通に入り口から入りたかったなぁ………」
 グッタリと項垂れた。しかし青年は、すぐに顔を上げ、少女を見て
「ところで君、誰?」
「わ、私ですか?私は………えっと……ミリィっていいます」
 少女−ミリィは、少し考えてからそう答えた。
「ふ〜ん、ミリィね。俺は、ジーン、よろしく。で、いきなり頼み事で悪いんだけど……引っ張ってくれる?」
「あっ、はい」
 ミリィが言われたとおりにジーンの手を取るとジーンは、壁にもう一方の手をつけ
「それじゃあ、1、2の3で引っ張って。いくよ……1、2の3!」
 かけ声を合図に2人は、力を入れた。
「ふんぬあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 ジーンは、気合いを入れるためか大声を出しているが、穴に腰骨が引っかかっているようで少しも出てこない。
 しかしジーンは、諦めずに
「ファイトォォォォォォォォォ!!いっっっっぱあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁつ!!」
 もし暗闇で見たら一生安眠が出来なくなるぐらい恐ろしい形相で気合いを掛けるとその思いが通じたのかジーンの体は、いきなり穴から出てきた。
 しかし不幸にも穴から出た勢いが収まらずミリィは、腕を持ったまま倒れて、その姿は、まるで土佐の一本釣りのようでジーンの姿もまるでつり上げられた魚のように宙を舞い、そのまま壁に激突。
 ゴンッ!!
 まるで鉄のかたまりをハンマーで叩いたような鈍い音が辺りに響いた。ジーンが激突した壁の部分を見るとジーンの頭程のへこみが出来ている。
「〜〜〜〜〜ッ!!」
 あまりの痛みにジーンは、頭を押さえながらのたうち回っている。
 一方ミリィの方は、目をパチクリさせながらジーンが穴から抜け出たことがわかり、満面の笑みで
「わぁ〜、やりましたね!穴から出られましたね!」
 子供っぽく飛び跳ねながら喜んでいる。
 しばらくしてジーンが床でのたうち回っている事に気付き、ミリィは、首を傾げて考えた後、何を理解したのか手をポンと叩いて
「のたうち回るほど穴から出られたことが嬉しいんですね」
「ちっがーう!!」
 ジーンは、痛みを忘れて思わずつっこんだ。
「ほぇ?」
 ミリィは、目を点にして驚いている。
「何でそう言うボケを言うかな……」
「はぁ……じゃあ、何がのたうち回るほどだったんですか?」
 ミリィは、ボケでなく本気でわからないようで首を傾げて尋ねている。ジーンは、こめかみを押さえて呆れたように
「壁に出来たへこみとのたうち回ってる俺を見たら、普通あまりの痛みにのたうち回ってると思わないか?」
 ジーンの返答にミリィは、しばらく考えた後、再びポンと手を叩いて
「だからさっきゴンッていう音がしたんですね」
「聞こえてんなら何故わからない?」
 その問いに答えるためミリィは、首を傾げて考え
「う〜〜ん、何ででしょう?」
(単なる天然ボケか?それともわざとなのか?)
 ジーンは、答えに呆れながらも
「あのさぁ、ミリィ。ちょっと失礼かもしれない事聞くけどいい?」
「はい、何ですか?」
「ミリィってさ……もしかしてロボット?」
「えっ!?」
 ミリィの驚いた表情をみてジーンは、慌てて
「あっ、いや違ってるなら謝るよ」
 しかしミリィは、首を左右に振って
「いいえ、ミリィは、ロボットです。よくわかりましたね」
「あぁ、さっき引っ張ってもらった時、普通の女の子と思えない力だったから」
 そう言うとミリィは、途端に心配そうな顔をして
「もしかして腕、痛かったですか?」
「いや別に大丈夫。ただ普通より力強いって思っただけだ」
「そうですか、よかったぁ」
 ジーンは、ミリィの安堵の表情を見ながら
(いいロボットだなぁ……作ったドクターは、よっぽど腕がいいんだろうな。けどあのボケは、一体……)
 無意識のうちに笑みがこぼれていた。
 そんなほのぼのとした空気の中
「ああぁ!」
 ミリィは、いきなり大声を出した。
「どっ、どうしたんだ?なんか壊しちゃったか?」
「……帰り道……」
「へっ?」
 ジーンが聞き返すとミリィは、目を潤ませながら
「帰り道がわからないんですぅ〜」
 ミリィのボケっぷりにジーンは、為すすべもなくこけた。
「ほぇ?どうしたんですか。ジーンさん?」
「い、いや、普通来た道がわかるんだったら帰り道もわかるんじゃないか?と言うかミリィってロボットだろ、ナビ機能とかついてないのか?」
「ナビ機能は、ついてますけど……」
「けど何?」
「使い方がわかんないんですぅ」
 ジーンは、あまりのミリィのボケっぷりに
(ホントにロボットなのか?)
 と思いながら呆れていた。
「研究室ってどこにあるんだ?」
「えっと〜、157階です」
「157階……うぅ〜む、一緒に探そうと思ったが……」
「一緒に探してくれるんですか!?」
 ミリィは、目を輝かせジーンを見るが
「遠いからやっぱ止めようかなぁ……なんて……」
 そう言うとミリィは、一転して今にも泣きそうな顔になり
「うりゅ〜……」
「お前、それなんかズルいぞ」
 そう言いつつも結局ジーンは、ミリィと一緒に研究室を探す羽目になった。

 数分後ジーンとミリィは、エレベーターホールに来ていた。
「とりあえず157階に行くには、エレベーターに乗らないとな」
「そうですね。でも150階以上は、パスが必要なんです」
「パス?」
 ジーンが聞き返すとミリィは、首から下げているカードをジーンに見せて
「これがパスです。エレベーターで150階まで行くと検問みたいなのがありまして、そこにこのカードを通せば大丈夫です」
「俺は、パス無いけどいいのか?」
「はい、大丈夫です。同行者がパスを持っていれば大丈夫なんです」
「ふ〜ん」
 ジーンは、表向きは普通にしていたが、心の中では
(ミリィの首から提げてるヤツって迷子カードじゃなかったんだ)
 そんなことを考えていた。
 しばらくするとエレベーターが降りてきてジーンとミリィは、それに乗り込んだ。
 基本的にタワー内の研究者達は、自分の研究室から出てこないのでエレベーターは、ほとんど人が乗っていない。今回も例外なく人は、乗っていなかった。
「とりあえず150階かぁ……長いなぁ。暇だから何か話すか」
「はい。で、何を話します?」
「そうだなぁ……ミリィってさ、造られてから何年経つんだ?」
「そうですねぇ……20年ぐらいです」
「20年!?」
 ミリィは、まだ1年も経ってないだろうと思っていたジーンにとって驚きに値する答えだった。
「20年って、とてもそんなに見えねぇなぁ……」
「でも20年前に比べるとだいぶ変わっちゃいました。髪なんて最初赤かったんですけど日に当たって色が落ちちゃってこんな色になっちゃったんです」
「ふーん、でもさ20年経ってる割には、ミリィって……なんつーか、その〜……」
 ジーンが言いにくそうにしていると
「おっちょこちょいって言いたいんですか?」
 ミリィが代わりに答えた。
 ジーンは、少々ばつの悪そうに口ごもりながら
「いや、まぁ、その……」
「いいんです。気にしてませんから。私、よくマスターから言われちゃうんです、ドジとかクズ鉄とか。だから造られてから1年も経たないうちにマスターは、私に何も頼まなくなったんです。
 でも今日、すっごく久しぶりにマスターが私にゴミ捨てを頼んでくれたんです!私、嬉しくて嬉しくて……」
 ミリィは、興奮しながらやや目を潤ませている。
 しかしジーンは、その話を聞いて
(20年もほっといたロボットにゴミ捨てを頼むか、普通?しかもタワー内部だったら定期的にゴミ回収があるはずだが……)
 ミリィのマスターに多少の疑いを持ち始めていた。ジーンがしばらくそのことについて思案しているとミリィは、ジーンの顔をのぞき込み
「ジーンさん?」
 ジーンは、ミリィの声で我に返り
「あっ、あぁ、悪い悪い。ちょっと考え事してて……おっ?そろそろ150階じゃん。流石に速いな、高速エレベーターは」
 ジーンの言うとおり既にエレベーターは、150階に来ていた。
 エレベーターの扉が開くと目の前に駅の自動改札のようなモノが数台並べられており、その奥には151階以上へのエレベーターが見える。
「ミリィ、ホントに大丈夫なのか?ぱっと見、警備ロボットが5体もいるし、赤外線センサーだって動いてるし、4台のカメラだってずっとこっちを見てるぜ」
 物々しい警備にジーンは、多少びびっていた。
 一方のミリィは、確信があるのかそれとも単に脳天気なのか
「大丈夫ですよぉ、ゴミ捨てに行くときちゃんとここ通れましたから。それにしてもジーンさん、よく赤外線センサーなんてわかりましたね。あれって肉眼で見えないはずですよ」
 ミリィの何気ない指摘にジーンは、答えに窮しながら
「あ〜、それはだな、その〜、俺って眼がいいから」
 かなり無理のある言い訳だったが、ミリィは、微塵も疑わず
「そうなんですか。すごく眼がいいですね」
 むしろ感心していた。素直に感心しているミリィを見つつ、ジーンは、半ば呆れながらも
(天然ボケってどういうプログラムなんだ?もしかしてバグってんのか?)
 そんなジーンの視線に全く気付かずミリィは、首から提げているパスを自動改札のようなモノに入れた瞬間
 ビー!ビー!ビー!
 辺りにエラー音が鳴り響いた。
「えっ?えっ?どうして?なんでぇ?」
 エラー音に驚いたミリィは、涙目になりながらあたふたしていると中空に浮かぶ球形の警備ロボットが近づいてきて
「警告シマス。コノぱすハ、偽造ぱすデス。20秒以内ニコノ場カラ立チ退イテ下サイ。立チ退カナイ場合、武力もーどニ移行シマス。警告シマス………」
 どうやらミリィのパスは、偽造パスと認識されているようだ。
 それを聞いたミリィは、更にあわてふためいて
「えっ?えっ?ど、どど、どうしましょう?」
 ミリィがジーンを見上げるとジーンは、舌打ちしてから
「とりあえずエレベーターん中に戻るぞ」
 ミリィの手を引いてエレベーターに戻った。しかしミリィがあわてふためいている間に20秒経ってしまったので
「20秒経過、武力もーどニ移行」
 警備ロボットの真ん中から上下に分かれ、その間から銃口が現れた。
「目標ろっくおん!」
 警備ロボットがそう告げると銃口から長さ10pの金属製の棒が時速80qほどの速度で射出された。そしてその棒は、先端部を中心に4本の棒に分かれ、十字型になった。
 これが体に当たると体が宙に浮くほどの衝撃を受け、人ならば気絶、ロボットでさえ一時的に機能が停止する程の威力がある。
 ジーンとミリィは、ぎりぎりでエレベーターの扉でそれを防ぎ、とりあえず下へ向かった。
 下へ向かうエレベーターの中でジーンは、腕を組んで壁により掛かり、ミリィは、腰が抜けたように座り込んで、お互い黙り込んでいる。
 先に口を開いたのは、ジーンの方だった。
「なぁ、ミリィ。慌ててエレベーターに乗ったのはいいが、これからどうする?」
「………」
 しかしミリィは、惚けたままで答えなかった。
 その様子を見てジーンは、舌打ち1つしてミリィの肩を掴んで
「おい!ミリィ、しっかりしろ!大丈夫か?」
「………えっ?」
 ようやくミリィの意識が戻り、ジーンを見上げて
「あっ、ジーンさん………すみません、ぼーっとしちゃって」
「いや、いい。それよりどうする?このまま下に行っても警備ロボットが待ってるはずだ。なんかいい方法ないか?」
 その瞬間、エレベーターは、停止して電気が消えてしまった。
 ミリィは、何が起こったかわからず辺りを見渡し、ジーンは、眉をひそめて頭を掻きながら
「ちっ!閉じこめられたか」
「えっ?どういうことですか?」
「多分警備ロボットがエレベーターを止めたんだろ。大して役目を果たしてないエレベーターを動かすより偽造パスを使った侵入者を捕まえる方が大事なんだろうな」
「じゃ、じゃあ、捕まっちゃうんですか?」
 心配そうにしているミリィとは、裏腹にジーンは、口の端をあげて軽く笑いながら
「そう簡単に捕まってやるかよ。まぁ、見てな」
 そう言うとジーンは、エレベーターの扉に手をかけて1度深呼吸をしてから
「ふっ!」
 力を込めて扉を開け始めた。
 扉は、徐々に開いていき、扉の上半分から床になっている。扉を通れる程度に開けるとジーンは、振り向いて
「行くぞ、ミリィ」
「へっ?」
「何だ?逃げたくねぇのか?」
「い、いえ、そうじゃなくて……なんで私に付き合ってくれるんですか?偽造パスを持っているのは、私でジーンさんは、私と離れれば安全なんですよ」
 ミリィがそう言うとジーンは、思いっきり眉間にしわを寄せて
「はぁ?アホか、お前は?どうせ俺も一緒に見られてるから意味ねぇだろ。それに今更他人面してお前を置いて行けるか」
「で、でも……」
 ミリィが二の句を告げようとしたが
「だぁ〜、もう!!うざったいなぁ、とにかく一緒に逃げてりゃいいんだよ!!わかったか!!」
「は、はい!」
 ジーンの怒声に思わず返事をしてしまうミリィだった。
 勢いでも返事をしたミリィを満足そうに見てから
「よしよし、んじゃまずは、俺から出るからその後でミリィが出てこい」
 言うが早いかジーンは、ミリィの返事も聞かずさっさとエレベーターから脱出し、予想通りミリィは、うまく出られずジーンが上から引っ張り上げてようやく出られた。
「ふぃ〜、さてとここから何処に行きゃいいんだか……ミリィ、エレベーター以外で157階に行く方法は、無いのか?」
「え〜っと、エレベーター以外には、階段ですね」
「おいおい、ここから157階まで自力で登れと?大体ここ何階だよ?」
 ジーンが辺りを見渡すとエレベーターホールに82階というプレートが張ってある。
「げっ!75階分を自力で登るのか?めちゃめちゃきついなぁ」
「でもそれしかエレベーター以外で上に行く方法は、無いです」
 ジーンは、思いっきりヤな顔をしたが、それ以外行く方法がないので仕方なく
「面倒だなぁ。ったく、ミリィのマスターになんかお礼でももらわなきゃやってらんねぇなぁ。つー事でミリィ、無事研究所に着いたらマスターにお礼を渡すように言えよ」
「ほ、ほぇ?何でですか?」
「何でって、そりゃ俺がわざわざ送るだけでも十分理由になるのに今じゃ警備ロボットに追われてるんだぞ。これで無事に着いたらお礼の1つや2つぐらいするのが当然だろ」
「そ、そう言うモノなんですか?」
「そう言うモノなんだ」
 流石にミリィは、多少疑ったが、あまりにジーンがきっぱりと言うので、やはり多少の疑いを払いのけ信じ込んでしまった。
 ジーンとミリィは、早速階段を上り始めたが、75階分の階段を上るのは、きついようで
「ハァ、ハァ、ハァ………」
 10階も登らないうちにミリィの息は、完全に上がっていた。
 ミリィの前方でジーンは、警備ロボットに警戒しつつ
「おい、ミリィ大丈夫か?何だったらどっか適当なところで休むか?」
 しかしミリィは、壁に手をついて体内の熱を少しずつ放熱しながらも
「い、いえ、らいじょうぶれす、ハァ……ハァ……は、早く行かないと警備ロボットに捕まっちゃいますから」
 少し体熱が冷めたらしくミリィは、再び階段を上り始めたが、その速度と言ったら正に亀のごとし!
 見かねたジーンは、ミリィの傍まで降りてきて
「おい、無理すんな。やっぱどっかで休んだ方がいいな」
 そう言うと有無を言わさずミリィを軽々と脇に抱えて、手頃な部屋を見つけてしばらくそこで休むことにした。
 その手頃な部屋は、どうやら休憩場のようで球形ドーム内に野原が広がっている。
「は〜、タワー内にこんな所があったんだ」
 ジーンが物珍しそうに見渡すと名も知らぬ花が咲いており、色とりどりの蝶が飛んでいる。そしてスピーカーからだが、鳥の囀りや川のせせらぎ等も聞こえてくる。
 休憩には、これ以上ないぐらいのリラックスできる空間である。
 ジーンは、タワー内にこんな所があることに驚き、ミリィは、初めて見る自然に対して感動して、お互いしばらくぽかんと口を開けてその空間に魅入っていた。
 普通に考えれば、こんなところで休んでいる場合ではないが、2人共抗い難い誘惑に負けてジーンは、草の上に寝っ転がり、ミリィは、初めて見る花や蝶を物珍しそうに眺め始めた。
「はぁ〜……」
 寝ころんでいるジーンは、まるで空気が抜けるように溜め息をつき、頭のなかの整理を始めた。
(多分ここに警備ロボットが来るのは、時間の問題だろうな。まぁ、その前に逃げるとして問題は、ミリィのマスターだな。
 不可解な点がいくつかあるんだよなぁ。
 まず1つ長い間ほったらかしにしてたロボットに用事を頼むこと。
 普通そんなロボットは、気がつけば寿命が来て捨てられるのが関の山だ。
 もう1つは、ゴミ捨てを頼むこと。
 確かタワー内には、ほぼ毎日ゴミ収集が専用のロボットで行われているはず。それなのに何故わざわざロボットを使ったのか
 もしかして………)
 ジーンの頭の中にある1つの考えが浮かび上がった。しかしジーンは、即座に首を振り
(まさかそんなわけあるはずねぇ……)
 その考えを否定した。だが否定しつつも頭の中は、冷静に物事を考えることを止めず
(だけどミリィは、あの通りだし、可能性は無いとは言いきれない。いやむしろその方が当然だと思えるが……)
 結局いくら考えようとその考えは、あくまで推測の域でしかない。もちろんそれ以外の可能性も十分あり得る。
 しかし人は、一度悪い方向に物事を考え出すとその後の全ての考えが悪い方向に向かってしまう傾向がある。
 ジーンもその傾向があり、体を起こして地面に腰を下ろした状態で固まってしまった。
 そしてジーンが固まってしばらく時間が経った時、花や蝶を物珍しそうに見ていたミリィがジーンの傍まで戻ってきて
「ジーンさん」
 考え事に没頭していたジーンは、ミリィの気配に気付かず声をかけられ多少驚きつつ
「ん?……あぁ、ミリィか。もう十分休んだのか?」
「はい、もう大丈夫です。あの、ジーンさんに渡したいモノがあるんですけど」
 ミリィの言葉にジーンは、首を傾げて怪訝そうな顔をして
「渡したいモノ?」
「はい、ちょっと目をつぶってくれませんか?」
 不思議に思いながらもジーンは、ミリィに言われたとおり目を閉じると頭の上に何かリング状のようなモノがかぶせられた。
 目を開けてそのリング状のモノを手に取ってみると
「これは……」
 赤、青、黄の様々な色の花で作られた花輪だった。
「私からの感謝の気持ちです。ジーンさんには、色々助けてもらったので。こんなモノしか出来ませんが……」
 照れているのかミリィは、やや顔を下に向けながら、指先で服の端をいじくっている。
 ジーンは、改めてミリィがくれた花輪を見ると多少不格好に見えるが、色とりどりの花がきちんと編み合わせてある。
 少し視線をずらしミリィの手を見ると僅かだが、緑色に染まっており、土でカサカサになっている。
 手にした花輪を再び頭の上にのせ、ミリィのはにかんだ表情を見るとジーンは、このロボット……いやこの少女をとても愛おしく感じ、抱きしめたい衝動に駆られた。
 しかしその衝動を何とか抑え、ミリィの頭を撫でて
「ありがとな」
 撫でられたミリィは、猫のように眼を細め、嬉しそうに笑った。
 傍目で見る限りそれは、幸せそうな光景に見える。しかしその一瞬後、その光景は、一転する事になった。
 ジーンは、突然肩に激しい痛みと衝撃を受けて、肩を押さえて倒れた。
 状況を把握しきれてないミリィは、動揺し、辺りを見渡すと後ろから長身痩躯の白衣を着た髪の長い男がゆっくりと歩いている。
 その男の手には、少々形が変だが、銃らしきモノが握られている。そしてその銃らしきモノからは、名残惜しげに煙が上がっている。
 ミリィは、その男を視認すると嬉しそうに笑い、倒れているジーンに手を貸して上体を起こしながら
「ジーンさん、あの人は、私のマスターです」
「ミリィの……マスター?」
「はい!きっと探しに来てくれたんですよ」
 ミリィは、微塵の疑いもなく笑っているが、ジーンは、ミリィのマスターを信じることは出来なかった。
 ミリィのマスターは、ジーン達から5m程離れた位置で立ち止まり、銃を見ながら
「ふん、照準にまだ改良の余地があるな」
 ミリィは、銃のことを気にせずマスターに近づき
「マスター……探しに……来てくれたんですね!!ありがとう……ございます」
 嬉しさのあまりか泣き出している。
 ミリィのマスターは、そんなミリィを淡々と見つめ、手にしている銃の照準をミリィの頭にあわせた。
 一体何のことか理解できないミリィは、戸惑いと恐怖の表情を浮かべ、掠れた声で
「マ……マスター?」
 だがミリィのマスターは、その声に答えず引き金に指をあて、ゆっくりと引き金を引いた。引き金が完全に引かれる一瞬前にジーンは、ミリィの足を払い、銃の照準からずらした。
 照準を失った銃弾は、銃口からまっすぐ吐き出され、ジーンの顔のすぐ横を通過し、地面に跳ね返り、跳弾となって何処かへ飛んでいった。
 ミリィのマスターは、一瞬眉間にしわを寄せたが、再びミリィの頭に照準を合わせ、再び引き金に指をかけた時
「おい、ちょっと待てよ。せめて冥土の土産代わりに理由を聞かせてくれよ、ミリィのマスターさんよ」
 ジーンの言葉にミリィのマスターは、怪訝そうな顔をして
「ミリィ?………もしかしてこのクズ鉄の事か?」
「そのつもりだが」
「このクズ鉄には、名前をつけてないはずだが………なるほど9体目だからか」
 ミリィのマスターの言葉を理解できないジーンは、眉間にしわを寄せていると
「紹介が遅れたな、私の名は、ミリアルド=ラザフォード。さっきの言葉の意味は、私のイニシャルM・Rに9番目のアルファベットのIをつけて、ミリィと言う名にしたのだろうと推測したからだ。まぁ、クズ鉄にしては、良くできた名前だ」
 ミリィのマスター、ラザフォードは、肩をすくめ、軽く笑った後再びミリィに照準を合わせ
「まぁ、今から壊れるクズ鉄には、必要のないモノだがな」
 銃口の先にいるミリィは、どんなに非道い言葉をかけられようと信じてきたマスターに裏切られて、逃げることも出来ずただ放心するだけだった。
 ジーンは、少しでも時間を稼ぐためか再びラザフォードに話しかけ
「まだ理由を聞いてねぇぜ。まぁ、何となく予想はつくけどな」
 ジーンの言葉に少なからず興味を持ったラザフォードは、銃をおろしてジーンの方に向きなおり
「ほぉ、ならば貴様の予想とやらを聞かせてもらおうじゃないか」
 今度は、ジーンに照準を合わせた。
 ジーンは、銃口を見つめ溜め息を吐いて
「お前は、確か20年ぐらい前にミリィを造って、1年足らずでミリィを倉庫にしまったんだったよな」
「そうだ」
「お前は、そんなミリィをわざわざ起こしてゴミ捨てに行かせた。1回しか使えない偽造パスを持たせてな」
 ラザフォードの眉が一瞬跳ね上がったが、ジーンは、気にせず続け
「何も知らないミリィは、帰りもその偽造パスを使って検問を通ろうとする。
 そこで警備システムが偽造パスに反応してミリィを破壊する。多分お前は、その偽造パスを遠隔操作で塵も残らないくらいに爆破出来るようにしてたんだろう。
 予定としては、破壊されたミリィを使って賠償金をもらい、研究資金にでもしようと思ってたんだろうが、俺がそれを阻止したから自ら出てきた、違うか?」
 ラザフォードは、驚いたような顔をしたが、すぐに弾けるように笑い始め
「その通りだよ、いや実にすばらしい推理だ!ついでに言えば先程君を凶悪犯に仕立て上げたからNO.9を君に破壊されたことにすれば、NO.9の賠償金と君の賞金がもらえるようになったのだよ。
 少々面倒なことになったが、君のおかげで更に多くの研究資金を得ることが出来そうだ!君には、感謝するよ」
「そりゃどーも」
もし、「僕」を見つけても、手は出すな。
 ジーンの素っ気ない態度が気になったのかラザフォードは、怪訝そうな顔をして
「今から殺されるというのに随分と素っ気ない態度だねぇ。それとも助かるとでも思っているのか?」
 ラザフォードの問いにジーンは、ゆっくりと立ち上がり、肩を押さえていた手を降ろし、口の端をあげて笑い
「殺れるものなら殺ってみな」
「君は、面白いことを言う人だ。今の状況を説明すると君は、私の銃の射程圏内にいて、なおかつ照準を頭に合わせられているのだよ。これでも君は、強気でいられるのかな?」
 ラザフォードの自信に満ちた説明を聞いてもまだジーンは、口の端をあげて笑ったままだった。
 その姿を見てラザフォードは、哀れみに似た表情で
「君は、よほど頭が悪いみたいだねぇ、可哀想に………さようなら」
 きちんと照準を合わせて、引き金を引いた。
 銃口から人間の目では、とても視認できそうにない速度の弾丸が吐き出され、まっすぐジーンの頭に向かったが、まるで発射されるタイミングがわかっていたかのようにジーンは、サイドステップでその弾丸を躱した。
 ラザフォードは、眉を跳ね上げ、再び銃を眺め
「どうやら随分と照準がずれているようだな」
「いいやずれてないぜ」
 ジーンの言葉に怪訝そうな顔をして
「それは、どういう事かな?まさか君が避けているとでも言うのか?」
「そうだとしたら?」
 ラザフォードは、その言葉を鼻で笑い
「ただの人間がそんなこと出来るわけがない」
 ラザフォードの言い分に対してジーンは、肩をすくめ
「まだ気付かねぇのか?俺は、一言も人間だなんて言ってないぜ」
 ラザフォードは、目を見開き、動揺して
「!まさか……貴様ロボットか!?」
「ピーンポーン、大正解」
 シリアスな状況でのジーンの軽い口調は、ラザフォードの動揺を誘うだけだった。
 ラザフォードは、白衣の中から手のひらサイズのノートパソコンを取りだし、そのノートパソコンの側面に着いているカメラでジーンの姿を映し、ジーンの内部構造を見た結果
「ほぉ、なるほど随分とロボット離れしたプログラムを組んだロボットだな。ロボット三原則と言うのを知っているか?」
「そりゃ一応ロボットなんでね」
「ならば私の邪魔をするな」
 ラザフォードは、ジーンに一言そう言うとまだ呆けているミリィに照準を合わせた。
 しかし………
「何のつもりだ?」
 ミリィの前には、ジーンが立ちふさがり体を張ってミリィを護っている。
「何のつもりと言われれば、ミリィを護るつもりだ」
「ロボット三原則の1つ”命令に服従せよ”に違反しているぞ」
 ラザフォードの言葉にジーンは、首を横に振って否定し
「いいや、違反してないぜ。なんせ俺のマスターは、最初に”自分のやりたいようにやれ。それが最重要命令だ”と言ったからな」
 そう言うとラザフォードは、蔑んだ目でジーンを見つめて
「貴様のマスターとやらは、狂っていたようだな。ロボットにそんな命令を下すとは、同じ科学者として恥ずかしい限りだ」
 一瞬ジーンは、体を強張らせてゆっくりと
「今……なんて言った?」
「ん?聞こえなかったのか?ロボットのくせに聞き取れないとは、いよいよ壊れて始めたようだな」
 一方のラザフォードは、おどけた態度で答えたが、ジーンは、口調にやや怒気を含み再び
「なんて言ったかを聞いているんだ」
 ジーンの問いにラザフォードは、肩をすくめて
「ふん、そんなに聞きたければ、もう一度言ってやろう。ロボットにそんな命令を下すとは、同じ科学者として恥ずかしい限りだ」
 ラザフォードが言い終わると同時にジーンの姿が消え、いきなりラザフォードの前に現れた。
 恐らくジーンは、視認できない速度で5mの距離を一気に縮めたのだろう。その証拠にジーンの立っていた地面は、深くえぐれており、ジーンがラザフォードの前に現れた時ラザフォードは、ジーンが移動した時に生じた風圧で倒れてしまった。
 ジーンは、倒れたラザフォードを睨み付け
「今の言葉を取り消せ」
 抑揚のない、正にロボットらしい口調で言い放った。
「ひっ、ひぃ!」
 しかしラザフォードは、ジーンの姿を恐れ、言葉を紡ぎ出すことが出来なかった。
「もう一度言う、今の言葉を取り消せ」
 再び抑揚のない口調で言い放ったが、完全に怯えているラザフォードは、後ずさりしながら
「くっ、来るなぁ!!」
 適当にジーンの頭に照準を合わせ、銃を撃ったが、ジーンにとって目の前から発射された弾丸を避けることなど造作もないことで、首を曲げただけでその弾丸を避けた。
 ジーンは、感情のない瞳でラザフォードを見つめ、腕を振り上げると一転して瞳に激情を露わにして
「取り消せっつってんだろ!!」
 まっすぐラザフォードに拳を振り下ろすが、途中で腕に何かが絡まりその動きを止めた。
 振り向くと腕には、先程まで放心していたはずのミリィが絡み付いていた。
「何のつもりだ、ミリィ?」
 だがミリィは、絡み付いたまま黙っている。
 何も言わないミリィを一瞥した後、ジーンは、強引に腕をふりほどこうとしたが、流石はロボットと言えようかミリィは、ジーンの腕を決して放そうとしなかった。
 ジーンは、再び振り向きミリィを睨むと
「一体何のつもりなんだ!?」
 腕を掴んだままミリィは、ぼそぼそと聞き取りにくい声で
「マスターを……マスターを傷つけないで……」
「何故だ!ヤツは、お前をクズ鉄呼ばわりして、研究資金のためだけにお前を破壊しようとしたんだぞ!」
 ジーンの言い分はもっともだが、ミリィは、先程の聞き取りにくい声を震わせながら
「でも……私にとってマスターは、世界でたった1人のマスターなんです!」
 目から水を流した。機能的に見ればそれは、単に冷却液の漏斗だが、それは紛れもなく”涙”と言えるモノだった。
 ミリィの”涙”を見たジーンは、怒りが冷めていき、振り上げた腕を下ろして
「……ミリィ……」
 腕を下ろしたジーンを見つめ、ミリィは、少し安心したのか手から力を抜いたその瞬間、ミリィの体は、胸に鋭い衝撃を受け、為す術もなく後方へ倒れた。
 振り返るとラザフォードが銃を構えており、銃口から名残惜しげに煙が出ていた。
「ちっ!」
 ラザフォードは、銃を睨みつけ舌打ちした。恐らくジーンを狙ったつもりが標準が甘かったらしくミリィに当たってしまったのだろう。
 再びラザフォードは、ジーンに狙いを付けようとしたが、冷めかけていた怒りを再燃焼させたジーンがラザフォードを睨み
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 先程と同様一気に距離を詰めて、今度はラザフォードが握る銃を一蹴した。ジーンの蹴りを食らった銃は、呆気なく破壊され、周りに部品を散らばらせた。
 ジーンによって手の中の武器を破壊されたラザフォードが息をのんでいる隙にジーンは、ラザフォードの襟首を掴み、持ち上げた。
「ひっ!」
 完全に恐怖に心を支配されたラザフォードは、体を強張らせて短い悲鳴を漏らしたあと、震える声で
「た、頼む!こ、殺さないで……お、お願いだ、命だけは……」
 ラザフォードを安心させるためかジーンは、シニカルな笑みを浮かべながら
「安心しろ、殺しはしない。ミリィが”傷つけないで”と言ったからな」
 それを聞いてラザフォードは、安心して体の力を抜いたその直後
「だが、それだと俺の怒りが収まらねぇ」
 ラザフォードは、再び体を強張らせて
「お、お願いだ。ゆ、許して……そ、そうだ!金、金をやろう!それで許してくれるか?」
 ジーンは、その提案を鼻で笑い、更にラザフォードを持ち上げて
「言うこと欠いてそれだけか、てめぇ?」
「えっ?えっ!?そ、そうだ!修理したNO.9をお前にやろう!それでいいか!?」
 ラザフォードの提案にジーンは、屈託のなさそうな笑顔になり、その直後ラザフォードを睨み付け
「あいつを……ミリィをモノみたいに言うんじゃねぇ!!」
 怒りにまかせてジーンは、ラザフォードを投げ捨て、ラザフォードは、受け身もとれずに地面に落下し、気絶した。
 気絶したラザフォードを一瞥した後ジーンは、ミリィの傍に跪き
「ワリィ……お前を護れなかったし、お前のマスターを傷つけちまった」
 そして拳を握りしめ、地面を殴り
「ちっ……くしょう、こんな力があるのに護りたいヤツを護れないなんて……ちくしょう」
 しばらくジーンは、地面を殴ったままの状態で歯を食いしばっていると一瞬ミリィの手がピクリと動いたように見えた。反射的にミリィの手を見たが、動く気配がない。
「気の……せいか」
 諦めに似た呟きを言うといきなりミリィの体が起き上がり、それに驚いたジーンは、思わず体を引いて
「のわあぁぁぁぁ!」
 ジーンの驚きの声にミリィは、目をパチクリさせながら
「あの……おはようございます」
 少々場違いな挨拶を言った。
 未だにジーンは、ミリィが無事なことが信じられず
「お前……なんで平気なんだ?銃で撃たれたんだぞ!なんで平気な顔して起き上がってんだよ!?」
 その問いにミリィは、少し首を傾げた後、にっこり微笑んで
「私、丈夫なんですよ」
 相変わらずどこかずれた回答を言うミリィにジーンは、半眼閉じて呆れながら
「そんなお手軽な理由で助かるもんじゃねぇだろ」
 無意味だと思いつつもつっこみを入れずには、いられなかった。
 ジーンが呆れているのを横目にミリィは、ジーンの後ろで倒れているマスターに気付いたが
「…………」
 流石に銃に撃たれてもなおマスターを信じることは、出来ないらしい。その空気を読んだジーンは、いたたまれなくなり、わざと軽い口調で
「さ〜て、帰るか」
 ミリィは、ジーンに何か言いおうと口を開いたが、一瞬躊躇った後ミリィは、口を閉ざしてしまった。
 そんなミリィの行動を気配で感じ取ったジーンは、息を1つ吐いて、ミリィの肩を叩いて
「ほらほら、何やってんだよ?さっさと帰るぞ」
「えっ!?」
「えっ!?じゃねぇよ。さっきの話聞いてなかったのか?俺は、あいつからお前を譲り受けたんだぞ。だから今から俺がミリィのマスターだ」
 それを聞いたミリィが複雑な表情でジーンを見上げたのでジーンは、眉間にしわを寄せて
「なんだよ、俺がマスターじゃそんなに不満か?」
 慌ててミリィは、首を左右に振って
「い、いいえ!」
「よし!なら問題ないな、さっさと帰るぞ」
 言うが早いかジーンは、既にミリィに背を向けて、やや早足で出口に向かっていた。そんなジーンの背中を見ながらミリィは、屈託のない笑顔で
「はい!」
 元気良く答え、ジーンの横まで駆け足で向かった。
 そして2体……いや2人が外の光が溢れるドアをくぐるのは、さながら未来の希望の暗示のようにも見えないこともなかった。

 

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