名も無き英雄

〜出会い〜


 

 私とソルルが出会った頃、まだ私には名前というものが無かった。
 私は、一角狼と言う事だけで他の生物から畏怖され、いつも孤独だった。そしてその頃は、何かよくわからないものを感じていた
 ソルルと出会った時も私は、一匹で森を散策中だった。

「?」
 初めてソルルを見た時、私は戸惑った。人間しかもまだ年端もいかぬ子供が、魔獣の森と呼ばれるこの森を一人で歩いているのだから。
 いつもなら相手が気付く前に殺すのだが、子供と言う事で私は、警告するだけにした。
「カエレ」
 声で私に気付き、振り返った。
 大抵の人間は、私の姿を見れば恐怖し、逃げ出すなのだが
「わぁ〜、オオカミさんお話しできるの。すっご〜い」
 私を恐れるどころか興味津々に近づいてきた。
「カエレ」
 二度目の警告。
 しかし全く聞いておらず、私の目の前まで近づいた。
「ボク、ソルルって言うんだ。よろしくね。オオカミさんのお名前は?」
 ソルルは、私の目の前でペコリとお辞儀をして自分の名前を告げた。
「カエレ」
 私は、無視して三度目の警告をした。
 ソルルは、それが警告とわからず
「オオカミさんのお名前は、カエレって言うの?」
「チガウ」
「違うの? じゃあ、本当のお名前は?」
 私は、混乱していた。普通私の姿を見るだけで恐れをなして逃げ出す人間が、私に興味を持ち、名前までも聞いてきている。
 そして私は、この時になって名前がない事に初めて気付いた。
「………ナマエ、ナイ」
「オオカミさんのお名前ないの?」
 私は、首を縦に振った。
「じゃあ、ボクが付けてあげるね。う〜んとね〜…………ヴィト。うん、オオカミさんのお名前は、ヴィトね」
 ソルルは、満面の笑みで私に名前を与えた。
「ヴィト?」
 その時の私は、私がヴィトという違和感を感じていた。
「うん、そうだよ。ヴィト、よろしくね」
「ナゼ?」
 私は、名前の意味を尋ねた。
「だってヴィトって感じだから」
「???」
 私は、理解できなかった。何故私がヴィトという感じなのか、その根拠がわからなかったからだ。
「ねーねー、ヴィト遊ぼ」
 ソルルは、無邪気に私に接してきた。
 私は、混乱しながら一つの答えを出した。ソルルが私を恐れないのは、私より遙かに強いからなのか? だからこんなに余裕があるのか?
 その答えを出すと私は、ソルルから逃げ出した。
「あっ、ヴィト待ってよぉ」
 ソルルは、私に話しかけきていたが、その声も徐々に小さくなり、全く聞こえなくなった所で立ち止まった。
 ここまで来ればソルルは、私を諦めるだろう。そう思った私は、短時間だったが、非常に疲れる経験をしたのでその日は、ねぐらに戻って眠った。

 そして次の日
 私は、前日と同じように森を散策していると草の上で眠っているソルルを見つけた。
 再び私は、混乱した。この森で何の警戒もせず、これ程近づいても気付かない事は、死を意味する事なのだ。
 しかしソルルは、目を覚ます気配がない。
 私は、ソルルが私より遙かに強いと言う事を考え直してみた。何故ソルルは、こんなにも無邪気で私を恐れないのか。
 いつまで考えてもその答えは、わからなかった。
 私が考えているとソルルは、目をこすりながら目を覚ました。
 ソルルは、寝ぼけ眼で私を見つめ、私もソルルを見つめた。
 そしてソルルは、ゆっくりと手を伸ばし出した。
 私は、その手から逃れようとしたが、ソルルの小さく弱々しい手を見ると逃げ出す事を止めた。
 ソルルは、その小さくて細い腕で私の首に抱きつくと
「ヴィト、捕まえた」
 そして私に微笑んだ。
「今度は、ヴィトが鬼の番だよ」
「オニノバン?」
 私が聞き返すとソルルは、小首を傾げて
「えっ、だって鬼ごっこでしょ。だから昨日ヴィトは、逃げたんだよね」
 私は、愕然とした。ソルルは、私と遊んでいると考えていたのだ。
「違うの?」
 ソルルは、聞き返してきたが、私は答えられなかった。答えられない代わりに私は、ソルルに疑問をぶつけた。
「ナゼ?」
「?」
 ソルルは、相変わらず小首を傾げている。
「ナゼ、ソルル、コワガラナイ」
「? 何で怖がるの?」
「ミナ、ワタシ、コワガル。ダカラ、ワタシ、コワイ」
「ヴィトは、怖くないよ。だってボクと遊んでくれたし」
 そう言いながらソルルは、再び私の首に抱きついて
「ボクの友達だもん」
 私は、その時初めて気付いた。いつも感じていたよくわからないものは、寂しさだった。
 そう寂しかった。私は、寂しかったんだ。ソルル………
「アリガトウ」
「えっ? ボク、ヴィトに何かした?」
「トモダチ、ナッテクレタ。アリガトウ」
「そんなの当たり前だよ。だってヴィトは、ボクの友達なんだもん」
 そう言って私を強く抱きしめてくれた。

 この時から私の力は、生きる為でなく、ソルルを護る為となった。
 何故ならソルルは、私の”トモダチ”だからだ。

 

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