うさんた

ネタ提供:酉、文:紅

 一二月二十四日深夜──
 クリスマス・イヴ。世の子供たちがサンタクロースを夢に見ている、そんな時間。
 黒い空に黒い鳥。否。ローター音を極限まで抑え、どんなレーダーにも映らない黒塗りのヘリが一機。
 とあるマンションの屋上近くに滞空すると、ハッチが開いて長いタラップが投げ下ろされる。
 そして。
 これ以上無い隠密行動のヘリから現れたのはこれ以上無いほど派手な赤い衣装に身を包んだ少女一人。
 少々、一般に知られている物と違う事を除けばその衣装は紛れも無く「サンタクロース」と呼ばれる者のそれだった。
 この寒空の元、スカートの丈は短く、肩が出ている。肘上までの手袋も赤なら、足許のブーツも赤。背には白い袋を背負って。
 赤い瞳は子供の居る部屋の窓に目星をつけ、赤い帽子から垂れた長い耳は室内の音までも聴き分ける。

「よっし、このマンションはこの部屋で終わりっと」
 上階の部屋、そのベランダに音も無く降り立つと、ポケットから何やら取り出してガラス戸に取り付く。
 きぃっ……かたっ
 ガラスをなぞり、吸いつけた吸盤を引く。半円状にガラスが外れ、クレセント錠を難なく外し室内へ。
 うさぎの獣人である彼女──ある人は「うさんた」などと呼ぶが──は足音も無く子供部屋に侵入すると、枕もとにプレゼントの大きな箱を置いて立ち去る。

 再びベランダに出るとタラップをつかむ。
 と、何か冷たいものが鼻先に触れた。
「冷えると思ったら、雪かぁ」
 はらはらと舞い散る雪が黒い空に白い斑点を生む。
 くしゃみがひとつ。
 身震いひとつ。
 室内の住人に気付かれたのでは、と耳をそばだてて様子をうかがい、胸をなでおろす。
 タラップを登りながら、ぶつぶつと。
「あと、千八百四十二件って……はぁ、長老も人遣いが荒いんだからっ」

 雪の降る空をヘリが行く。見習いサンタのうさんたを乗せて。
 彼女が一人前になるのはまだまだずっと先のお話。

「……メリー・クリスマス、また来年会いましょ」


....END

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